尋常性ざ瘡(ニキビ)の通常の記事はこちらを参照ください。
日本ではニキビ治療は原則として保険診療で受けることができます。しかし、日本のニキビ治療はアメリカやヨーロッパなどの先進国に比べて遅れているといわれています。例えば、アダパレンや過酸化ベンゾイルといった薬は、アメリカでは2003年には普及していたのに対し、日本ではアダパレンが2008年、過酸化ベンゾイルは2015年から使用可能になりました。さらに、欧米では重症のニキビには非常に効果の高いイソトレチノインが使われていますが、日本では保険適用されていません。
多くの医師は、治療方針を定める際に「ガイドライン」と呼ばれる専門的な指針を参考にしますが、日本のニキビ治療ガイドラインでは保険適用外の治療法についてはあまり詳しく記載されていません。特にイソトレチノインのような保険適用外の治療法は、日本では一部のクリニックでしか提供されていないのが現状です。
保険診療のみ行うクリニックでは、重症のニキビの治療が難しい場合があります。一方、自費診療のみのクリニックでは、ニキビに対しての治療に精通しておらず、軽症〜中等症のニキビ患者にも適切な治療が行われないことがあります。まずは軽症から中等症のニキビには保険診療をしっかりと行うことが推奨されます。
アダパレン(®ディフェリン)や過酸化ベンゾイル(®BPO)製剤は、基本的にニキビの予防薬です。これらはニキビができてからピンポイントで使用するのではなく、顔全体に毎日塗布することで予防効果を発揮します。使用開始直後は刺激があるため、徐々に使用範囲を広げるよう注意が必要です。
イソトレチノインについて
イソトレチノインはビタミンA誘導体であり、皮脂腺の活動を抑え、皮膚のターンオーバーを正常化することで、ニキビの発生を抑えます。アメリカやヨーロッパでは「ニキビ治療の切り札」として長年使用されており、非常に効果の高い経口薬ですが、日本では保険適用外です。
効果と服用方法
イソトレチノインは、皮脂の過剰分泌や角化異常を抑えることで、既存のニキビを減らし、新しいニキビもできにくくします。一般的に体重1kgあたり0.5〜1mgの用量から始めますが、副作用を考慮して1日20mgの低用量から開始することが多いです。重症度や体重によっては、1日40mgから始めることもあります。
- 服用期間: 通常、4〜8ヶ月程度内服をします。ニキビが完全に消えてからさらに2ヶ月継続することで、より再発を抑えることが期待できます。効果が現れにくい場合でも、1年間の内服で改善が見られることがほとんどです。
- 服用のタイミング: 食後に服用することで吸収が良くなります。朝昼夕のいずれでもかまいませんが、食後に服用することが推奨されます。
効果の出現時期
イソトレチノインの効果は、一般的に内服開始から2〜3ヶ月で現れます。4ヶ月が経過する頃には、多くの患者さんで改善を実感できます。
副作用と注意点
イソトレチノインの効果は高いものの、副作用や注意点もあります。
- 皮膚および粘膜の乾燥: 唇や皮膚、目の乾燥がよく見られます。かなりの患者さんで唇がカピカピに乾燥しますので、ワセリンなどの油分の多い保湿剤を頻回に使用してください。
- 関節や筋肉の痛み: 軽度の関節痛や筋肉痛が発生することがありますが、通常は治療を継続できます。
- 肝機能や脂質の異常: 内服開始時と治療中の定期的な血液検査が必要です。(血液検査データをお持ちの方はご持参ください)
- 催奇形性: イソトレチノインは胎児に奇形を引き起こす可能性が高いため、確実な避妊が必須です。以前は内服終了6ヵ月間の避妊が必要とされていましたが、現在ガイドラインが改訂され、女性は内服中および内服後1ヶ月間の避妊が必要となっています。(アメリカではiPLEDGEプログラムがあり、医療機関、医師、そして患者もこのプログラムに登録する必要があります)
その他の注意点
- 薬の併用: テトラサイクリン系の抗生物質と併用すると、頭蓋内圧亢進のリスクが高まるため注意が必要です。他の抗菌薬、鎮痛薬、経口避妊薬などは問題ありません。
- 年齢制限: イソトレチノインは12歳以上で使用可能とされており、短期間の使用であれば大きな影響は報告されていません。
個人輸入について
時々、イソトレチノインなどの処方薬を個人輸入している方がいます。
詳細はあやしいヤクブツネットをご自身でご確認していただきたいですが、海外では模造品や汚染された薬が売られていることも多々あります。
クスリはリスクです。日本における医薬品の個人輸入は、自己使用の範囲内で認められていますが、医薬品の安易な個人輸入は個人的にオススメしません。
ブルージェネシス(ブルーレーザー治療)について
イソトレチノインの内服治療は、高い催奇形性のリスクや定期的な血液検査が必要となるため、妊娠希望もしくは妊娠する可能性が高い女性や重症ニキビでない場合には適さないことがあります。そこで当院では、イソトレチノインが必要なほどではない方に対して、ブルーレーザーを用いた治療「ブルージェネシス」を提供しています。
ブルージェネシスは、ブラウマン社のブルーレーザーを使用し、450nmの波長の光を顔全体に照射することで、ニキビの原因であるアクネ菌を効果的に殺菌します。この治療により、ニキビの改善だけでなく、肌の赤みを和らげる効果も期待できます。ブルーレーザーによるブルージェネシスは痛みやダウンタイムがほぼなく、副作用も少ないため、幅広い患者様に適応可能な安全な治療法です。
治療について
治療回数: 5回~10回
治療間隔: 1週間~3週間
副作用: ほとんどありませんが、ごくまれに発赤や軽い火傷を引き起こす場合があります。
注意事項
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- 保険診療適応外の自費診療になります。
- この治療法で使用される医療機器は、国内において薬機法上の承認を受けていません。
- 未承認の医薬品・医療機器については、厚労省「個人輸入において注意すべき医薬品等について」をご覧ください。 厚労省のサイトへ